トラ技SPECIAL掲載のHPA(その1)

トランジスタ技術SPECIAL誌 2017 Summer(No.139) 版に、面白そうなヘッドホンアンプの記事が掲載されています。

いずれもディスクリート構成なので、本誌のメインテーマ 「トランジスタ回路の読み解き方&組合せ方入門」の勉強には最適の例題になっています。CQ出版社で販売していますので是非お読みになってください。

私なりに遊んでみた結果を中心に記載します。回路も掲載しますがその定数はブラインドします。

その1は、「無帰還でひずみ0.003%以下!フルディスクリート・ヘッドホン・アンプ」(加藤大 氏)です。無帰還、0.003%に惹かれ、シミュレーション、ユニバーサル基板で製作、歪率の計測、基板設計までやってしまいました。

【回路】
記事を書くのに回路図が無くては説明ができないので、本誌掲載の回路でLTSpiceの検証を行った回路図を掲載します。但し、抵抗定数はブラインドしています。元記事を参照願います。

HPA_mukikan_1.jpg

この回路の最大の特徴は、Q5、Q12のトランジスタとQ4の定電流を組み合わせた「スーパー・エミッタ・フォロア」という回路の部分です。記事によればこの回路の素は、MOSトランジスタの回路技術にあるスーパー・ソース・フォロアをMOSをバイポーラ・トランジスタに置き換えたものと言うことです。詳細(その仕組みと性能)は元記事を参照ください。

その基本回路に対し、定電流回路の追加、インバーテッド・ダーリントンTrの追加、更にこれらを上下に完全対称とした回路が上図となる との説明です。

これらの回路を構成するトランジスタの総数は、左右チャンネル合計で 何と!26個にもなります(12+12+定電流2)

LTSpiceでのシミュレーション、試作を行うに当たり、記事掲載の回路を一部変更しています。回路左は定電流回路ですが、元記事ではここに300μAのCRDを入れていますが、CRDは過去にノイズがあった記憶があり、今回はJFET(Idss0.95mA)と抵抗の組み合わせで300μA流れるようにしています。尚、この定電流回路は左ch、右chに共用できます。

Q12,Q13 及び Q2,Q7 は安定した定電流特性を得るため熱接合させる必要があります。

【シミュレーションの歪率計算結果】
LTSPiceの計算結果は素晴らしいものです。最大入力1Vp-pで出力1Vp-pです(バッファアンプです)。最大歪量は入力レベルで大きく変動しません。入力1Vp-pで歪率は何と! 0.00048%でした


備忘録2件:

1.
使用しているトランジスタは、一般的で私も多数所有している 2SC1815、2SA1015 にしましたが、元記事では 2N3904、2N3906 が使用されています。前者は東芝オリジナルですが、最近は東芝製は入手が難しくなって来たようで、セカンドソース品が売られています。但し、留意すべき点は2SC1815 と、2N3904 ではピン・アサインが異なります

2.
私は 2SC1815、2SA1015 でシミュレーションしましたが、当初使っていたモデルでは猛烈な発振が起こりました。成すべきなく、トラ技のモデルを使ったところピタリと発振が止まりました。

(発振あり)
.model Q2SC1815 NPN(Is=2.04f Bf=160 Br=3.377 Xti=3 Eg=1.11 Vaf=6 Ne=1.5 Ise=0 Ikf=20m Xtb=1.5 Nc=2 Isc=0 Ikr=0 Rc=1 Cjc=1p Mjc=.3333 Vjc=.75 Fc=.5 Cje=25p Mje=.
(発振無し)
.MODEL QC1815 NPN  (IS=4E-14 BF=170 BR=3.6   VA=100 IK=0.25 RB=50 RC=0.76 CJC=4.8p CJE=12p TF=0.63n TR=25n)

私のスキルではどこが問題なのか判りません。実際に試作してみると、(発振無し)を使っても良いようです。

【試作】
トラ技の記事にもユニバーサル基板で組んだ写真が掲載されていますが、ここでは配置と配線図を記載します。
PasS というツールで構成した基板図の画像です。

HPA_mukikan_9.jpg
赤い線は部品面の配線、青い線はハンダ面の配線です。
注意:これはトランジスタに2SC1815、2SA1015 を使った場合の配線図です。2N3904、2N3906 ではベースとコレクタ位置が入れ替わっています。

HPA_mukikan_4.jpg

ユニバーサル基板に設置した回路です。

【音出し1】
やはり、何といっても一番先にやってみたいのは、その音出しです。
リチウムイオン電池2個を使って音出ししました。

HPA_mukikan_3.jpg

エージングもしてない初期の音ですが、何かとても素直な音感です。素直と言うと低音も高音も出ないような響きですが、そうではありません。低音、高音をチェックすべき楽曲でテストしてみましたが、いずれもパフォーマンス豊かで綺麗な発音です。

この音に惚れました。早速ケースに実装してみます。

HPA_mukikan_5.jpg

いつも使っているケースに実装してみました。この薄さですのでリチウムイオン電池は内部に入れられません。
入出力端子やボリューム、そして充電回路やリチウム電池保護回路はV6-2の基板を切り出して流用しました(実はこの改造が大変でした)

HPA_mukikan_6.jpg

充電LEDの点灯もOKです。充電中は高輝度に点灯します。

HPA_mukikan_7.jpg

充電が終了すると減灯します。問題の改善ができました。
標準電圧LED(1.8-2.0V)が適切で、高輝度LEDは充電ICと特性が合いません。

【音出し2】
充放電テストを兼ねて1昼夜近くエージングした音出しテストをしました。

HPA_mukikan_10.jpg

エージングと共に明瞭度が増しました。これはエージングで経験する最大の変化です。
全体的な音の感じは落ち着きがあります。長時間聴いていても疲れない感じです。
しかしながら、低音や高音の伸びにも不足感は全くありません。

【実測歪率】
アンバランス出力ならば WaveSpectra を用いて歪率の計測ができます。

HPA_mukikan_11.jpg

シミュレーションしたのは1Vp-p入力まででした。
ここでは1.1Vp-pまでテストしました。最大出力は0.8Vrms(18mW at 36Ω)です。
最低歪率は 0.04% 程度を示していますが、私の歪率計測システムのノイズ系が0.03%程度あるのでかなりの低歪であるのは納得できます。

【周波数特性】
HPA_mukikan_12.jpg

0dB領域が、20Hz~40KHzです。-3dB範囲ならば、5Hz~108kHz範囲と良好な特性を示します。


【基板の検討】
出音の素晴らしさに感動して、いつものケースに実装できるか、基板の成立性を検討してみました。

HPA_mukikan_8.jpg

先に採用を考えている角型Li-ion電池 850mAh (50x34x5t)では部品エリアが狭く、少しサイズの小さい 650mAh (40x30x5t) にすれば基板上下で4mmのエリアが増えるので、それで設計が成立しました。
Li-ion電池使用を前提にしているので、供給電圧は±4Vです。 Li-ion電池は内部抵抗が低いので瞬発的な電力供給ができます。よって作例と同じように電源コンデンサを排除しています。



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2010/3/17 電子工作をプラスしました。

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