トラ技SPECIAL掲載のHPA(その2:1.5V電池2本で超エコ&素晴らしい音)

前回の記事に続き、トラ技SPECIAL 2017Sumer No.139 に掲載のヘッドホンアンプの2例目を作ってみたので、LTspiceと製作したものの計測結果を載せます。

例によって回路の姿は載せますが、部品定数をブラインドしますので、作ってみようと思われる方は本を参照してください。

このHPAもフル・ディスクリートです。記事は第4章 強力ドライブ!ポータブル・ヘッドホン・アンプ(小川敦 氏) です。

私がとても興味が沸いたのは、拙作HPAシリーズが初期のころに作っていた、1.5V電池2本で動くということです。このアンプも1.5V電池2本で動き、実用的には0.9Vになっても動作するという点です。

【LTSpiceに載せた回路図】
HPA_discrete_2.jpg

この回路をマクロに見てみると、カレントミラー負荷の差動増幅の出力を上下対称のカレントミラータイプの終段増幅回路で増幅すると見て取れる。この差動増幅と終段増幅の間にレール・ツー・レール出力段を設けた構成とあります。

回路構成の機微に関しては記事本文を参照願いたいが、上下対称増幅回路+レール・ツー・レール出力段の組み合わせが1.5V電池2個の低電圧でも素晴らしい性能になっているようです。

記事にもLTSpiceシミュレーション結果がTHD 0.02% とありますが、上図で私が行ったのシミュレーションでも、THD 0.024%(入力0.4Vp-p、出力 0.93Vrms at 36Ω)となり、24mWの十分な出力があります。

HPA_discrete_1_2.jpg  

この図は0.4Vp-p入力を行って波形を表示させたものです。黄緑の波形が出力で±1.3Vp-p程度あり、赤の線が1.5V電池から流れる電流波形で、ピークは38mAありますが、平均では何と2.7mA程度しか無く、相当な省エネHPAであることが示されます。記事でも2.7mAとあったので半信半疑でシミュレーションしたものです。アイドル電流を流さない回路なので省エネなのですね。

それでは早速作ってみました。
【基板図・eagle】
HPA_discrete_3.jpg
トランジスタを32個も使うので、100x75mmの eagle std サイズ基板を使うことにしました。スペースに余裕があるので入出力ジャックや2連ボリュームも付けます。
トランジスタのペア特性選定方法について、元記事にも説明がありますが、私はhFEで選定しました。使用したトランジスタ 2SA1015GR も 2SC1815GR もhFEが260~280のロットからhFEを計測して並べます。差動増幅のペア特性が重要な部分は最大偏差5以内のものを使いました。その他は±5以内にしました。

【試作品】
HPA_discrete_6.jpg

手持ちの抵抗を使ったので、炭素、金皮、サイズがバラバラです。
入力にコンデンサが入っていますが、多分不要でしょう。

単三アルカリ電池を2個付けました。電流を計測したいので40mΩ±1%のチップ抵抗を電源線内に挿入しています(赤〇部

1kHzサイン波を入力してチップ抵抗電位差を計測しました。私のテスターでやっと計測できる 0.1mV でした。電流に換算すると 2.5mA です。シミュレーション結果を再現しています。
消費電流が2.7mAということは、市販アルカリ電池で700時間とか1000時間の電池ライフになります。これはすごいです。

参考までに出力端子のオフセット電圧は、左0.0mV、右-0.2mV でたいへん良好でした。

【歪率】
HPA_discrete_4.jpg

波形の繋がりが、ややギクシャクしてますが(これは歪率計測のWaveSpectra が示す THD の値がバラツクので、その読み取りバラツキも入っているものです)、最小歪率は 0.023% at 1Vrms です。シミュレーション結果の 0.024% at 0.93Vrms とほぼ同等の結果を示しました。これは素晴らしいことです。

【周波数特性】

HPA_discrete_5.jpg

いやいや、これも素晴らしい結果です。何と、5Hz~100kHz 間が全くのフラットです。
(500kHzが少し上がっているのは位相補償コンデンサが330pに対して部品入手の都合で390pになっているせいかもしれません)


素晴らしい結果ですが、エージングのために一晩放置しました(こんな低電流でエージングなるのかな?サイン信号入れておけば良いのかな?とりあえず無信号です)
電池電圧は、1.559V が一晩経って 1.543V でした。

【出音】

エージングが進んだのか判然としませんが、その1:スーパーエミッタ に比較して、元気で活性の高い音色というのが第一の感想です。

何か気持ちが良い音がします。
ビブラフォンとベースが混在した楽曲は、綺麗に響くビブラフォンを中心に、かなり低域まで引っ張るベースが支えるワクワク感と広がり感があります。
女性ボーカルでは、歌う姿が目の前にあるような錯覚があります。
フル・オーケストラの様々な楽器が広がって定位している感覚があります。

多分ですが、ぺるけさんのFET差動HPAの歪カーブにあるように、出力レベルが上がってくると歪レベルが下がる傾向に似ています。もしかするとこのカーブが影響しているかもです。

尚、入力カップリングコンデンサの影響を排除するため直結してみてもこの音色感は不変でした。

いや、これは久々の大ヒットHPA と言えるでしょう。
是非、作ってみることをお勧めします。

HPA_discrete_7.jpg

あまりにも素晴らしい音なので、しばらくは使ってみたい。とりあえず簡単な透明プラスチックケースに入れました。電池は残念ながらケース内には収まりません。電源スイッチやLEDも付いてませんが・・・


------------- 2017/08/13 追記 -------------------
【基板をデザインしてみました】

「是非作ってみては」とは言ったものの、32個ものトランジスタをユニバーサル基板で配線するには相当の根性が要ります。自分でもそれを思うと挫けてしまいますね。

と思って、EAGLEで基板レイアウトをしてみました。

いつも使っているプラスチックケース・タカチ GHA7-2-9では、とても無理のようです。厚みは同じで単三電池2個のスペースも同じですが、基板の奥行きが20mmも長くなるケースがあります(GHA7-2-11)。ケースサイズの奥行きが9cm から 11cm に増えますが、ポータブル可能なサイズと思います。

HPA_discrete_8.jpg

手前が入出力と電源系です。電源と言っても、電池2本の接続端子と電源コンデンサ、そしてON-OFFスイッチと電源LEDがあるだけです。Li-ion電池を使うとすると、保護や充電ICが場所を取るので、乾電池2本というのはGoodです。

参考までに、電源コンデンサを付けなくとも、電池だけでかなりの性能が出ます。このブログの試作器には付いていません。

今回の配置では、できるだけチップ抵抗を使わず、音に影響がないところは1/6W炭素抵抗、入力や負帰還抵抗、Zebelフィルタ抵抗には1/4W金属皮膜抵抗が使えるようにしました。(なけなしの利休抵抗使おうかと・・・)
これならば簡単に半田付けができるので、「自分で作った感」が出るのでは思います。

良く見ると、今までは必ずあった可変抵抗器がありません。A級動作のHPAではアイドル電流調整のため必須の部品でしたが、このHPAには必要ありません。ペアトランジスタのhFE選別をしっかりやれば、再現性の良いHPAができると思います。

意外に場所を取るのがZobelフィルターのコンデンサーです。少し幅の広いものが付けられるスペースを確保しました。

---------------------- 2017・8・19 追記 ----------------------

【従来ケース用基板サイズに押し込みました】

HPA_discrete_9.jpg

やはり縦寸法が11cmに増えるのはコンパクトが身上の私としては抵抗があるので・・・、従来のケース・タカチ・GHA7-2-9 が使える基板に押し込んでみました。

これを行うためのスペース縮小には以下の2つが必要でした。
・電源用電解コンデンサを外す。試作器にも付いてませんが電気的特性や音感に不足ありません。
・抵抗は縦置きに装着する。

かなり苦しい配置ですが、設計上は収まりました。

この図の部品番号を、トラ技SPECIAL 2017 Summer No.139 の元記事 P49 図28 の回路図に記載されている部品番号に合わせたものがこの基板図になります。

HPA_discrete_10.jpg

但し元図に於いて、抵抗の場合 「R番号」となっているものが基板図では左右chあるので、左chは 「RL番号」、右chは「RR番号」としてます。
トランジスタも同様に「Tr番号」を、「TL番号」「TR番号」としています。
コンデンサは「C番号」が「CL番号」「CR番号」です。

トランジスタのTr1とTr2 (上図では、TL1とTL2、TR1とTR2) は熱接合ですのでぴったり合わせていますが、他はケース装着の大きなホールを避けるので、左右chの配置がかなり違っています。

こんな基板があれば、元記事を参照しながら作ってみることが楽になるのではないでしょうか?







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